校長の長話製作委員会

登場人物

戸塚 男性
 高校3年生 部長を務めており、一番真摯に校長の長話を考えている。

立花 女性
 高校2年生 入りたい委員会もなく、面白そうだから入ってみた。意外とセンスある。

東 男性
 高校1年生 なんとなく興味を持った委員会に入り、つまらない話を考える先輩たちを尊敬し学ぶ姿勢を持ってる。


会議室にて


戸塚
「さて、今日皆に集まってもらったのは他でもない。どういうことか、もうわかっているね。」


立花
「えぇ。」



「分かっています。」


戸塚
「そう。この、日笠山高校の校長である岡山校長の、全校集会で話すネタがなくなりかけているとのこと。
校長のネタを考えるため、今日の会議は、二人ともよろしく頼むぞ!」


立花
「にしても、急すぎじゃないですかー?部長は帰宅部だから暇なんでしょうけど、私たちは部活があるんですよ?」



「今日じゃなくてもいいんじゃないんですか?」


戸塚
「し、仕方がないだろう。この、「校長の長話制作委員会」は臨時集会になるのが基本ではないか。」


立花
「まぁ、そうですけど、なんかいつもタイミング悪いんだよねー。」



「確かに。なんか嫌なタイミングですよね。気乗りしない絶妙な時というか。」


戸塚
「あーもう!君たちはつべこべうるさいなぁ。いい加減慣れてくれよ。」


立花
「私たちは、卒業するまで一生文句を言い続けます。」


戸塚
「最初の頃は、楽そうだからと言って入ってきたくせに。何を言ってるんだ。」


立花
「よくよく考えたら、めんどくさかったです。はい、すみませんでしたー。」


戸塚
「ったくもう。さっさと始めるぞ。東くん、これまでの校長の話のリストをあげてくれないか。」



「はい。分かりました・・・。」


(書類をみる東)



「えーっとですねぇ、先月のお話は、『鉛筆とシャーペン』『心のバケツ』『壊れた傘』『人間の宿題』
この4つですね。今月のストックには『水と油の絆』『在校生ファッション』『校長の娘』が残っています。」


戸塚
「ふむ・・・今月を持たせるためにはあと1つか。」


立花
「どれもこれもパッとしない話ばっかなのにね。校長センスなさすぎでしょ。」


戸塚
「そんな失礼なことを言うな。校長から直々に選んでいただいているんだぞ。」


立花
「こっちだって色々考えてやってるのに、全然面白くないネタばっかり「お、いいねぇ」とか言って笑ってんの!バカみたい。」



「これまでの先輩方が考えてきたネタも、全部クソつまんなかったです。」


立花
「つまり、歴代を通して校長はセンスがないということですねー。」


戸塚
「やめないか!私たちよりも長く生きておられるんだぞ。少しは尊敬の念をもつべきだ!」


立花
「別に尊敬してないわけじゃないし。ネタの選ぶ基準を話してただけよ。」



「だから私思うんです。校長が気に入るネタには、基準があるんですよ。」


戸塚
「なんだ。言ってみろ。」



「校長が気に入るネタは、面白いわけでなく、話としてなにか意味を含んでいて、メッセージ性があるかどうか。そして絶妙につまらないんです。だから皆覚えてないんですよ。」


立花
「なーんで覚えもしないネタを、私たちが考えなきゃいけないんですかねー。」


戸塚
「これが仕事だからだよ!」


立花
「で、どうするの?いつもみたいに、なんか適当にまわしてく?」


戸塚
「そうだな・・・。まずは色々話してみないことにはネタは出てこないからなぁ。」


立花
「はいじゃあ決まり。いつもみたいな感じね。それじゃあ、東から!お願い。」



「はい、承知しました。
んー、では・・・アインシュタインのお話はどうでしょう。」


戸塚
「天才学者の話か?」



「はい。「天才とは努力する凡才のことである」っていう名言を残してるんです。これを最後にもっていけるようなネタにしましょう。」


立花
「アインシュタインねぇ・・・。」


戸塚
「一回、軽く通してできたりしないか?」



「あ、いいですよ。ちょっと考えさせてくださいね。」


戸塚
「あぁ。準備が出来たら言ってくれ。」


立花
「学者の話だし、結構受験生とかには刺さるんじゃないの?」


戸塚
「そうだな。ネタとしては悪くない。いい感じにメッセージ性もつくれるだろう。」



「準備できました!
題名は『天才の定義』です!」


戸塚
「お、よろしく頼む。」


(校長を意識する)


「えー皆さん、おはようございます。元気がいいですね。皆さんに負けないよう校長先生も、最近は勉強にスポーツに色々頑張っています。
そこでですが、皆さんは、アインシュタインは知っていますか?相対性理論で有名ですね。
彼は、9歳でピタゴラスの定理を自力で証明し、微分積分も独学で学びました。これが、天才といえる存在の証なんでしょうね。
しかし、私が思う天才というのは、アインシュタインのような人間だけではないと思っています。
彼が相対性理論を発表したのは37歳です。それまでに多くの失敗が重なっています。
そこで彼はこんな言葉を残しています。
「挫折を経験したことが無い者は、何も新しい事に挑戦したことが無いということだ」ということです。
多くのことに挑戦し、失敗し、挫折をしてこそ相対性理論があるのです。
そういった多くの経験が、皆さんを天才へと導く大きなものになるのです。
最後にこの言葉で締めくくります。
「天才とは努力する凡才のことである」
ありがとうございました。」


(拍手)

戸塚
「やっと終わったな。」


立花
「やっぱり校長の話ってちょっと長いね。」



「どうでしょうか。」


戸塚
「いやー、面白かったよ。」


立花
「うん。面白かった。」



「あら?面白かったんですか?」


戸塚
「アインシュタインだもんな。天才からそんなこと言われればなんか響くよ。なぁ?」


立花
「受験生には刺さりすぎてるかもね。高校になってくると頭がいいのって凄く憧れるもん。」


戸塚
「偉人の話は、校長にしては面白すぎたかもなぁ。」


立花
「時間も、地味にいやーな感じで、長さも絶妙でいいんだけど、面白すぎたかな。メッセージ性が強すぎたね。」



「そうですか・・・。校長の話って難しいなぁ。」


立花
「あとね、めっちゃ簡単なコツあるんだけどさ。」



「なんですか!」


立花
「話の区切りにね、”えー”っていうのをもっと挟むとより校長っぽくなるよ。」



「た、確かに!いざ自分で考えるとなると全く意識してなかったです!」


立花
「でしょー?じゃあ、次は私かなー。」


戸塚
「もういけるのか?」


立花
「いや、少し時間ちょうだい。」


戸塚
「分かった。」



「部長、面白さの定義が難しいです。」


戸塚
「そうだなぁ。笑える話だけが面白いというわけではないからなぁ。」



「どこがいけなかったんでしょうか。」


戸塚
「私が思うにだぞ?アインシュタインという存在が面白いのだと思う。
これがもし、校長の知り合いの話とかだったら、面白さがなくなり絶妙につまらなく、記憶に残らない話になったのではないだろうか。」



「ということは、これを校長の知り合いに置き換えて話すのは?」


戸塚
「それは嘘になる。校長は別に嘘の話をしたいわけじゃないだろうしな。」



「な、なるほど・・・。」


立花
「準備オッケーだよ。題名は『流行介護』」


戸塚
「よし、じゃあ始めてくれ。」


(校長を意識する。)

立花
「皆さん。おはようございます!朝は元気よくいきましょうねー!
さて、最近ですが、えー、若者についていけないなんて問題が、えー、私の中で起こっているんですねー。
だからねぇ。えー、ガラケーからスマホに買い替えたんですよ。でも、これがまた、えー、全然使えなくてねー。
えー、わたしの娘にね、あ、君たちと同じくらいの年頃なんだけどね。これどうするの?ってきいたら「自分で調べろクソジジイ」なんて言われちゃってねー
えー、女房に聞いてもね、呆れた目をされて、あんた時代に取り残されたまま消えるよ?なんてストレートに言ってくるんですよ。
こりゃもうひどい扱いだなぁーと!わたし、若者どころか家族にすらついていけてないですね!
あははははは!ですから、皆さん、えー、時代に乗り遅れないことがこれからは大事になってくるのでね!
ただ、えー、私みたいな人にも手を差し伸べる優しさは、えー、時代とともに流さないでくださいね!
というわけで、以上です。ありがとうございました。」


(拍手)

戸塚
「あー、なるほどな。」



「ふむふむ。無難なところというか。」


立花
「どうだった?」


戸塚
「絶妙に面白いのか面白くないのか分からないな。それがいいのかもしれんが。」



「仮に面白くても、笑っていいのか反応に困りそうな話ですね。」


戸塚
「そうだなぁ。最後も時代には乗り遅れるなっていうメッセージと共に、うまいこと言おうとしてる感が校長っぽいよな。」



「ちょっと恥ずかしいですね。」


立花
「めっちゃ言うじゃん。私の話じゃなくて、校長の話として考えてるんだからね!」


戸塚
「そりゃもちろん承知の上だ。
しかし、これはいいぞ。合間合間に挟むえーの繋ぎも程よかった。
”えー”の回数を数える暇つぶしを与えながらも
時間も絶妙に嫌だし、そして絶妙に面白いのか面白くないのか分からない。」


立花
「まぁ、校長がスマホなのかわかんないけどね。」


戸塚
「え!?ちゃんとそこは下調べをしてだなぁ・・・。」


立花
「でもでも、こんなこと言いそうじゃん。校長。」


戸塚
「ま、まぁそうかもしれないが。」



「校長がスマホに変えた時のストックとして記録しておきましょう。」


戸塚
「そ、そうだな。いつの日か役に立つときが来るかもしれない。」


立花
「はい。じゃあ最後は部長!頑張ってよ!腕の見せ所!」



「楽しみです!」


戸塚
「おいおい、私たちは、面白い話を考えているわけじゃないからな。そこは勘違いするなよ。」


立花
「分かってるって!早く考えてよ!」


戸塚
「ちょっと待て。時間をくれ。」


立花
「あいよ!」



「立花さんの話、すごくよかったです。あの何とも言えない感じのよくある自虐というか、それが校長っぽくてよかったです!」


立花
「これでも一応、副部長だからね。それっぽいのは考えれる!」



「こういうのって何かやり方とか考え方があるんですか?」


立花
「そうね。校長も別にたいそうなことを言いたいわけじゃないと思うの。単純なことを、うまく例えにして、より伝わりやすいようにしたいだけだと思う。」



「というと?」


立花
「例えば、先月の『心のバケツ』のネタあるじゃん。あれは、人の心をバケツとしたときに、水がギリギリまで入ってるとするじゃない。その状態ってどういう状態だと思う?」



「んー心のバケツがいっぱいだから・・・限界に近いとかそういうことですか?」


立花
「そう!だから、もしかしたら、あなたのその小さな発言で相手の心のバケツがあふれ出しちゃうかもしれないよって話なの。簡単に言えばね。」



「ほうほう。」


立花
「なんというか、回りくどいんだけどね。ストレート言えばいいのにそれだと興味持たないだろうからさ。誰でも分かるようにしてるんじゃないかなって思うな。」



「比喩のようなものを上手く使っていくわけですね。」


立花
「たぶん、そうなんじゃないかなー。でも、どれが正解ってわけでもないし、あくまで私の考えだからね。」



「いえ、参考になりました!立花さんありがとうございます!」


戸塚
「よし、大丈夫だ。
題名は『トイレのスリッパ』」


立花
「それじゃあ部長!よろしくぅ!」


(校長を意識する)

戸塚
「えー皆さんおはようございます。えー、受験生もね、そろそろ。えー、勉強の気合を入れていく頃かな。
先生は最近ね、放課後、えー、校舎を歩いているんだけどね。みんな偉いねぇ。ちゃんと掃除されているのが伝わってきます。
えー、きれいな教室がたくさんあって、先生は凄く気分がいいです。
ですが、えー。一つだけ気になるところがあったんですね。それがどこかというと。」


「トイレです。」


「もちろんね、えー、女子トイレは日高先生にね確認してもらいましたからね、私は見てませんよ?
そこで突然ですが、えー、私は生徒の皆さんの心を読むことが出来ます。
なぜでしょうか。はい、そこの君。」


立花
「え、私ですか!?話しをふってくるタイプの校長か・・・。えぇーっと。」


戸塚
「分からないみたいですね。答えは・・・
スリッパがぐちゃぐちゃになっているからです。
えー、今の皆さんには、余裕がなく、心が乱れている。そのように先生は思いますね。
トイレのスリッパを整える余裕すらない。えー、これでは非常に皆さんが心配です。
余裕のある人間というのは、えー、細かなことにも気づき気配りが上手だと私は思っています。
えー、学校をこんなにきれいにしてくれる皆さんなら、私は出来ると思っています。
もし、えー、何かが上手くいかなかったときは、えー、小さなことに目を向けてみてください。
そして,あー、何がダメなんだろうとか、えー、こうすればよかったのかなとか。
えー、この方法もあったかというようにいっぱい悩んでください。
視点を切り替えることで、えー、うまくいくかもしれません。というわけで皆さん。
えー、トイレのスリッパは並べてね。えー、以上です。ありがとうございました。」


(拍手)

立花
「あはははは!つまんねーーーーー!
詰まんな過ぎて面白いんだけど!」



「格の違いを思い知りました!校長ってこんなに”えー”って言うんですね!
しかも、こんなに詰まんないなんて!」


立花
「部長最高に詰まらなかったよ!」



「さすが部長です!」


戸塚
「あ、ありがとう・・・。」


立花
「時間も長くて嫌だし、ちょっと大げさな感じ?トイレのスリッパが乱れてるだけで生徒の心までは分かんないだろ!って言いたくなるような。」



「これも比喩なんですね!スリッパの乱れが心を表現してるんだ!」


立花
「長話の中にちょっとだけ笑いもいれようとしてる感じもね絶妙なのよ。「ちなみに女子トイレは見てませんからね」みたいなとこ!
別に気にしてないし、なんなら面白くないし、そこで挟んでくるのは、さすが校長って感じする!」



「生徒にも話をふることで余計にめんどくさい感じを高めるのもいいと思いました!」


立花
「最高にちょうどいい、詰まんなさとメッセージ性だったよ!」


戸塚
「あ、あぁ。ありがとう。」



「どうしたんですか部長!なんか元気ないですよ!」


戸塚
「そ、そうかぁ?そんなことないぞ・・・。」


立花
「ほら!とりあえず、校長に提出してきなよ!」


戸塚
「それもそうだな。ちょっと待っててくれ。」



「はーい。」



戸塚
「ただいま。」


立花
「お!どうなった!」


戸塚
「とりあえず、『天才の定義』と『流行介護』はストック。今月採用は『トイレのスリッパ』だって・・・。」



「お!やっぱり部長すごいです!」


立花
「だってちょーつまんなかったもん!やっぱ部長は天才だね!
3年間詰まんない話考えてたら、そりゃもうプロよプロ!
まじで面白くなかったよ!やっぱり校長センスないわー!あははははは!」



「部長みたいなことは考え付かないなぁ・・・。」


立花
「よーし!じゃあ私部活行ってくる!二人ともお疲れ様!」



「私も部活に行きます!お疲れ様でした!」


戸塚
「あ、あぁ。お疲れー・・・。」


「俺って詰まんないのかな・・・。」