海
「もう少しで、野球人生も終わっちゃうね。」
山野
「そうだね。」
海
「大学に行っても野球は続けるの?」
山野
「いや、野球はもうやらないかな。」
海
「どうして?」
山野
「どうしてって。高校までが、俺にはちょうどいいと思う。」
海
「そっか・・・寂しいな。」
山野
「俺も、これで終わっちゃうんだって思うと、寂しいよ。」
海
「私、山野君に、野球部だったことを最高の思い出にしてほしい。」
山野
「うん。十分楽しかった。振り返れば、きついことバッカリだけど、今はいい思い出だと思えるよ。」
海
「ほんと?」
山野
「海ちゃんも、マネージャーお疲れ様。海ちゃんのおかげでみんなも頑張れてるんだから。」
海
「そんなことないよ。みんな私なんかいなくたって大丈夫だもん。」
山野
「少なくとも、俺は感謝してるよ。だからきっとみんなも感謝してる。」
海
「・・・ありがとう。」
山野
「当然だって。」
海
「・・・。」
山野
「・・・。」
海
「山野君。」
山野
「ん?」
海
「お願いがあるの・・・。」
山野
「お願い?」
海
「うん。」
山野
「できるなら、力になるけど・・・なに?」
海
「 あのね・・・。
私を、甲子園に連れて行ってほしい。」
山野
「え?」
海
「私を、甲子園に連れて行ってよ。」
山野
「俺が?」
海
「うん。」
山野
「海ちゃんを甲子園に連れて行ってあげるの?」
海
「そうだよ。私に夢をみせて。」
山野
「いや無理だよ。」
海
「どうしてそんなこと言うの!」
山野
「ここは「分かった!連れて行ってやる!」
って言いたいところだけどさ。無理なんだよ」。
海
「なんで!」
山野
「だって俺、2軍じゃん。」
海
「 そうだよ。」
山野
「え?知ってるよね?2軍なんだよ?」
海
「うん。」
山野
「いや、あの、試合に出ない2軍の俺に言う台詞じゃないんだよね。」
海
「え、2軍って試合でないの?」
山野
「そりゃ、レギュラーメンバーじゃないし。」
海
「え?」
山野
「え?」
海
「そんなのいいから!甲子園に連れて行ってよ!」
山野
「よくないよくない。俺が言われるべき台詞じゃないから。」
海
「私は、山野君に甲子園に連れて行ってほしい。」
山野
「それは、4番のエースに言ってあげるセリフだよ。」
山野
「俺に言うのは、悔しいけど現実的じゃないと思う。」
海
「だって、甲子園でホームラン打ったら、山野君と付き合うって決めてたのに。」
山野
「え!それってホント!?」
海
「ほんとだよ。」
山野
「でもそれって最早、付き合う気ないでしょ。」
海
「どうしてそんなこと言うの。」
山野
「だって、2軍だもん。」
海
「そうだよ?」
山野
「試合でないし。」
海
「うん。」
山野
「なんなら2軍の補欠だし。」
海
「うん。」
山野
「いや、付き合う気ないじゃん。」
海
「私の気持ちはホントだよ!」
山野
「だって俺、バッターボックスにも立たないんだから!」
海
「どうしてそんなことバッカリ言うの!それでも頑張ってくれるもんじゃないの!」
山野
「甲子園に行きたい気持ちは凄くわかる。俺も行きたいもん。」
海
「そうだよね!」
山野
「でも俺、試合出ないし。」
海
「そうだよ!」
山野
「2軍だし。」
海
「そうだよ!」
山野
「補欠だし。」
海
「そうだよ!」
山野
「あのさぁ!「そうだよ!」じゃないんだよ!
それじゃダメなの分かるでしょ!俺に言う台詞じゃないの!」
海
「わかった。もういい。」
山野
「海ちゃん・・・。ごめんね。俺が不甲斐なくて。」
海
「いいの。」
山野
「それでも甲子園行きたい気持ちは一緒だから、俺もやれることは全力でやるよ。」
海
「そんなに言うなら、山野君が、練習試合でヒット打ったら付き合う。」
山野
「え?」
海
「これなら現実的でしょ?」
山野
「いや、それは俺が嫌だな。」
海
「なんでよ!」
山野
「だって、なんかさ・・・。スケールが小さいって言うか・・・。」
海
「山野君が甲子園にはいけないって言うからじゃん!」
山野
「だって俺レギュラーじゃないじゃん!」
海
「だから練習試合でって思ったのに!」
山野
「それだと、こう、プライドって言うかさ!そんなのじゃ胸張れないよ!」
海
「そんなことないよ、胸張れるもん!」
山野
「想像してみてよ!二人が付き合ったきっかけって何ですか?ってなった時のこと。」
(インタビューをするように)
「どうしてお二人はお付き合いを始めたんですか?」
海
「彼氏がですね、昔野球部だったんですけど!
ある日の練習試合の時に、ヒットを打ったんです!私凄く感動しちゃって!
そのヒットをきっかけに付き合い始めました!」
山野
「無理無理無理!俺、恥ずかしすぎてどうにかなっちゃいそうだよ!」
海
「でも、でも!ヒットはヒットだもん!山野君なら打てない可能性だってあるし!難しい条件だよ。」
山野
「それ遠回しに下手くそって言ってるよね?傷ついちゃうよ?」
海
「2軍の補欠なんでしょ?」
山野
「だからって何でも言っていいわけじゃないからな。」
海
「じゃあこれで決まりね。」
山野
「なーんか納得いかないなぁ。」
海
「ごちゃごちゃうるさいなぁ。」
山野
「ちょっと海ちゃん。」
海
「なに?」
山野
「・・・俺と、付き合ってください。」
海
「・・・え?」
山野
「こっちの方がカッコいいかなって思って。」
海
「それ言うとダサくなると思うんだけど。」
山野
「練習試合でヒットよりはマシ。」
海
「でも・・・いいの?」
山野
「そりゃ、そこまで条件つけて俺にカッコつけさそうとしてくれたんだ。
だから、俺が告白するべきだ。」
海
「山野君・・・!」
山野
「これからもよろしく。最後まで練習頑張るよ。」
海
「よろしくお願いします!」
山野
「甲子園には、俺がバイト頑張るからさ、そしたら一緒に観戦しに行こう。」
海
「なにそれ、凄く夢がないよ。」
山野
「甲子園での試合は凄いんだぞ。」
海
「連れて行ってほしかったなー。」
山野
「もう負けてるみたいな感じで言うなよ。」
海
「山野君に至ってはもう負けてるじゃん。」
山野
「いやそうかもだけど。」
海
「あーあー。甲子園に行きたかったなー。」
山野
「それは1軍に失礼だよ。」
甲子園に連れて行ってよ
登場人物
海 女性
野球部のマネージャーで献身的に頑張っている。
山野 男性
野球部の部員。ポジションはセンター。自分の才能の天井を自覚しながらも懸命に出来ることはやり切る。